胃炎の原因菌はピロリ菌だけではない!|南條内科おなかクリニック|富山市の内科・消化器内科・内視鏡内科

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医療コラム

胃炎の原因菌はピロリ菌だけではない!|南條内科おなかクリニック|富山市の内科・消化器内科・内視鏡内科

胃炎の原因菌はピロリ菌だけではない!

ピロリ菌以外の細菌による胃炎(ヘリコバクター・スイス感染症)

今回は、ピロリ菌以外のヘリコバクター属の細菌(NHPH, Non-Helicobacter pylori Helicobacter)であるヘリコバクター・スイス菌についてご紹介いたします。

今年の3月に国立感染症研究所が中心となって、私が富山大学附属病院で働いていた時に協力していた研究の結果が論文発表されました。

 発表された論文

“Development of serological assays to identify Helicobacter suis and H. pylori infections”

iScience. 2023 Mar 29;26(4):106522.

Hidenori Matsui, Emiko Rimbara, Masato Suzuki, Kengo Tokunaga, Hidekazu Suzuki, Masaya Sano, Takashi Ueda, Hitoshi Tsugawa, Sohachi Nanjo, Akira Takeda, Makoto Sasaki, Shuichi Terao, Tsuyoshi Suda, Sae Aoki, Keigo Shibayama, Hiroyoshi Ota, Katsuhiro Mabe.

 

研究内容は国立感染症研究所ホームページでも紹介されています;

https://www.niid.go.jp/niid/ja/basic-science/examination/12044-exam-2023-01.html

研究の背景

ヒトの慢性胃炎の原因になる細菌として、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)が広く知られています。ヘリコバクター・スイス菌は以前からブタなどの動物に感染することが知られていましたが、ヒトに感染して病気の原因になるか、最近まではっきりと分かっていませんでした。2021年に国立感染症研究所の林原先生が論文発表されて、ヘリコバクター・スイス菌がヒトの慢性胃炎の原因になることを証明されました(”Isolation and characterization of Helicobacter suis from human stomach” PNAS. 2021 Mar 30;118(13):e2026337118)。

ヘリコバクター・スイス感染症の診断方法については培養検査、PCR検査が最も確実なのですが(有効な培養検査方法やPCR検査方法も国立感染症研究所の同グループが開発しています)、検体の採取ミスの懸念があったり、内視鏡検査と培養検査に手間がかかり簡便に行えなかったりすることが問題となっていました。

今回の研究結果

今回の論文では、ヘリコバクター・スイス菌に対する抗体検査を確立したことが報告されています。抗体検査方法が確立したことで、内視鏡検査や培養検査を行わずにヘリコバクター・スイス菌の感染診断ができるようになります。

私の診療経験

私も富山大学付属病院で働いていた時に、国立感染症研究所の林原先生などと共同研究を行ってヘリコバクター・スイス感染診断を行っていました。ヘリコバクター・スイス感染による胃炎の患者様を10人ほど診療し、そのうち除菌治療を行った5人の患者様のデータをまとめて学会報告を行っています(第104回日本消化器病学会北陸支部例会、202210月)。すべての患者様が無症状で、検診/健診の胃カメラで萎縮性胃炎があるのにピロリ菌検査で陰性(感染していない)の結果であることからヘリコバクター・スイス感染が疑われたのが診断のきっかけでした。

今後の課題

ヘリコバクター・スイス感染症は、まだまだ広く知られていない疾患ですので、診断されずに見逃されている可能性があります。

また、胃がんや胃マルトリンパ腫との関連の証拠がまだ十分でないこと、検査や除菌治療が保険診療で行えないことが課題です。富山大学附属病院で働いていた時も十分なインフォームド・コンセントのもと、自費診療で除菌治療を行っていました。

 

ヘリコバクター・スイス感染症の概略

以下に、ヘリコバクター・スイス感染症について簡単にまとめましたので、ご参照ください。

【ヘリコバクター・スイス感染症】

【菌体】大型らせん状菌(ピロリ菌より大型で強いねじれ)

【宿主】ブタなどの動物、ヒト1)。養豚の半数以上が感染

【感染経路】ヒトへの感染経路は不明1

【疫学】感染率0.5%以下。ピロリ菌との重複感染6.52)

【病原性】急性胃粘膜病変、胃炎、鳥肌胃炎、胃潰瘍、MALTリンパ腫3,4)、胃癌5)

【内視鏡所見】前庭部の萎縮性胃炎、white marbled appearance、ひび割れ状粘膜。

【検査・診断】鏡検(ギムザ染色)、培養、 PCR、抗体検査1)

【治療】ピロリ菌に準じる1)

 参考文献:

1)松井ら.日本ヘリコバクター学会誌 2020;21:121-127

2Overby A, et al. Digestion, 2017; 95: 61-66

3)塚平ら.日本ヘリコバクター学会誌 2020;22:41-48

4)中村ら.日本ヘリコバクター学会誌 2018;20:37-45

5)  Yasuda T, et al. Sci Rep, 2022;12:4811