「ピロリ菌陰性」でも要注意。第2の胃炎原因菌「NHPH(ヘリコバクター・スイス)」の衝撃|南條内科おなかクリニック|富山市の内科・消化器内科・内視鏡内科

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医療コラム

「ピロリ菌陰性」でも要注意。第2の胃炎原因菌「NHPH(ヘリコバクター・スイス)」の衝撃|南條内科おなかクリニック|富山市の内科・消化器内科・内視鏡内科

「ピロリ菌陰性」でも要注意。第2の胃炎原因菌「NHPH(ヘリコバクター・スイス)」の衝撃

「胃の調子が悪いのに、ピロリ菌検査は陰性だった」

「胃内視鏡で『鳥肌状の胃炎』があると言われたが、原因がわからない」

近年、こうした患者さんの間で注目を集めているのが、「NHPH(Non-H. pylori Helicobacter:ピロリ菌以外のヘリコバクター属菌)」という細菌群です。特に、その代表格である「ヘリコバクター・スイス(H. suis)」は、私たちの身近な食習慣や生活環境に潜んでいることが分かってきました。

2025年に発表された最新の学術論文(Tokunaga K, Rimbara E, et al. Emerg Infect Dis. 2025)の知見に基づき、この菌の感染経路、診断の難しさ、そして現在の医療制度上の課題について徹底解説します。


1. ヘリコバクター・スイスの宿主と「豚ホルモン」の関係

ヘリコバクター・スイスは、その名の通り豚(スイス/豚の意)を自然宿主とする細菌です。ピロリ菌がヒトからヒトへ感染するのに対し、スイス菌は動物からヒトへと感染する「人獣共通感染症」の原因菌です。

全員に「豚ホルモン」の喫食歴

最新の調査(2025年論文)において、非常に重要な発見がありました。ヘリコバクター・スイスの陽性判定を受けた患者さんを詳細に調査したところ、驚くべきことに、その全員に「豚ホルモン(内臓肉)」を食べていた経歴があることが判明しました。

豚の胃(ガツ)などの部位を十分に加熱せずに摂取したり、調理の過程で菌が付着した器具を介して感染したりするリスクが示唆されています。ホルモン好きの方にとっては、非常に気になるデータと言えるでしょう。


2. 犬や猫から感染する「非スイス型」NHPH

NHPHの中には、スイス菌以外にもヒトに胃炎を引き起こす菌種が存在します。これらは、私たちの愛すべきパートナーであるペットと密接に関係しています。

猫の飼育歴と感染の相関

2025年のデータでは、スイス菌以外のNHPH(H. heilmanniiなど)に感染していたケースにおいて、多くの方に「猫の飼育歴」が確認されました。犬や猫もまた、これらの菌の自然宿主となり得ます。

ペットに顔を舐められたり、同じ食器を使ったりといった「過度な接触」が、菌を体内に取り込む原因の一つと考えられています。ペットを家族として迎えている方は、衛生面での適度な距離感を見直すきっかけになるかもしれません。


3. 日本における感染実態:30人に1人は感染している?

では、実際にどれくらいの人がこの菌に感染しているのでしょうか。最新の多施設共同研究(2022年4月〜2023年2月実施)では、日本の人間ドック受診者の実情が浮き彫りになりました。

約3.0%という「無視できない数字」

日本の4つの基幹病院で人間ドック(胃内視鏡検査)を受けた673名を調査した結果、約3.0%(20人)からNHPHの感染が確認されました。

これは「30人に1人」という割合です。ピロリ菌が激減している現代の日本において、この3%は、原因不明の胃炎に悩む人々にとって非常に大きな意味を持ちます。

なお、感染者の内訳はヘリコバクター・スイスが70%、その他のNHPHが30%となっており、やはり「豚」由来の菌が主流であることがわかります。


4. 専門医が見抜く「内視鏡的所見」の特徴

NHPH感染による胃炎には、通常のピロリ菌感染とは異なる、いくつかの特徴的な内視鏡サインが現れます。

  1. 大理石様外観(White marbled appearance)
    胃の出口付近(前庭部)から胃の角(胃角部)にかけて、浅い凹みによって構成される白い網目模様が見られます。これが「白い大理石(マーブル)」のように見えることからこう呼ばれます。

  2. ひび割れ様粘膜(Crack-like mucosa)
    粗い粘膜の表面に、さまざまな幅の色あせた、あるいは凹んだ線が網目状に広がります。陶器のひび割れのような独特のパターンを呈します。

  3. 結節性胃炎(Nodular gastritis)
    ピロリ菌感染でも見られる「鳥肌状」のブツブツです。ただし、NHPHによるものはピロリ菌による結節よりも低く、白い点(white spots)のように見えるのが特徴です。

  4. 点状紅斑(Spotty redness)
    胃体部や前庭部に、点のような赤みが見られます。これはピロリ菌感染の所見と似ていることがありますが、NHPHでも重要な指標となります。

  5. 集合細静脈の規則的配列(RAC)の保持
    通常、ピロリ菌に感染すると胃の微細な血管(RAC:ヒトデのような形の微小血管)は見えなくなります。しかし、NHPH感染(特にスイス菌)の場合、胃の下部などでこのRACが赤く微細な点として観察されることがあり、一見「未感染の正常な胃」に見えるため注意が必要です。

これらの所見があった場合、ピロリ菌検査が陰性であっても、医師は「NHPH感染」を強く疑います。


5. 診断と治療を阻む「医療の壁」

最新の研究で正体が明らかになりつつあるNHPHですが、日常の診療現場ではまだいくつかの大きなハードルが存在します。

① 血液検査(抗体検査)が臨床で使えない

研究レベルでは高精度の血清抗体検査や胃液を用いたPCR検査が開発されていますが、2026年現在も、一般的な病院の採血メニューとして臨床利用(保険診療)することはできません。 つまり、「採血で手軽に調べる」ことがまだ難しいのです。

② 「組織検査」による診断が主流

現在の一般臨床における診断方法は、内視鏡検査時に胃の粘膜を一部採取し、顕微鏡で直接菌体(コルク抜き状の独特な形)を確認する「組織検査」に限られています。

③ 保険診療では治療ができない

これが最も大きな課題です。現在、NHPHの除菌治療は日本の公的医療保険の対象外(適応外)です。ピロリ菌と同様の薬剤で除菌可能というデータはありますが、治療を希望する場合は原則として全額自己負担(自由診療)となります。


6. まとめ:原因不明の胃炎に悩む方へ

NHPH(特にヘリコバクター・スイス)は、私たちが日常的に口にする食材や、愛するペットから感染する可能性がある「身近な脅威」です。

  • 豚ホルモン(特に内臓肉)はしっかり加熱する

  • ペットとの口周りの接触を控える

  • 「ピロリ菌陰性」でも内視鏡所見に異常があれば、NHPHを疑ってみる

これらが、これからの時代の胃の健康管理において重要なポイントとなります。

もし、長引く胃の不調にお悩みであれば、最新の知見を持つ専門医に「NHPHの可能性」について相談してみるのも一つの選択肢です。今後の医療制度の整備により、より安価で簡便な診断・治療が普及することが待ち望まれます。