逆流性食道炎
逆流性食道炎
逆流性食道炎とは、胃酸や胃の内容物(消化中の食物、胃内に逆流した胆汁など)が、食道に逆流して、食道の粘膜が傷つき、胸やけや胸の痛みなどさまざまな症状が生じる病気です。日本人の約10%がこの病気であると推定されており、ありふれた病気です。
(1)胃酸が良く出ること、(2)食道と胃のつなぎ目が緩むこと、(3)腹圧が上がることが関連していると考えられています。
ピロリ菌は胃に炎症を起こし胃酸の分泌を低下させます。日本では衛生環境の改善や除菌治療の普及によって、ピロリ菌の感染率は大幅に低下しています。ピロリ菌の感染率の低下に伴い、昔の日本人と比べて胃酸が良く出ていることが報告されています。
食道と胃のつなぎ目はギュッと締まって逆流を防いでいるのですが、脂肪の多い食事を摂るとコレシストキニンという物質が分泌されて食道と胃のつなぎ目を緩めます。また、血圧を下げる薬の一部(カルシウム拮抗薬)はこのつなぎ目を緩めます。その他、胃の一部が横隔膜を超えて食道側に飛び出してしまった病態である食道裂孔ヘルニアでは、胃と食道のつなぎ目を緩めて胃酸が逆流しやすくなるだけでなく、食道に逆流した胃酸が胃に戻ることも妨げてしまいます。
加齢による骨粗しょう症で背骨が曲がることや肥満によって腹圧が上昇します。
代表的な症状としては、胸焼けや酸っぱい液がのどまで上がってくる(呑酸、どんさん)がありますが、無症状の方もいれば狭心症と区別のつかないような胸の痛み、慢性の咳、不眠(眠れないこと、夜に目が覚めること)を表すこともあります。
問診票を利用するなどして患者さまの自覚症状を詳細に把握し、逆流性食道炎を疑えば胃カメラを受けていただきます。胃カメラでは、食道の炎症の程度や範囲を確認したり、他の病気がないか確認したりします。
通常、食事は胃の中に4時間程度たまっています。この状態で体を横にしたり、前かがみやしゃがみ込みなど腹圧が上がる姿勢をとったりすると、胃酸や胃の内容物が食道に逆流しやすくなってしまいます。食事は腹八分目にして、食後は座って過ごす時間をつくるようにしましょう。言うは易し、行うは難し。よくあるのは、お仕事で帰宅が夜遅くになり、夕食後すぐに寝てしまうという例です。特に夜間や早朝に胸やけなど逆流性食道炎の症状がある場合には、夕食の時間を早めたり、夕食の量を減らしたりすることで症状を和らげられます。また、脂肪の多い食事は胃酸を逆流しやすくしますので、控えめにしましょう。
胃酸の食道への逆流が主な原因ですので、胃酸の分泌を抑える薬で治療します。強力に胃酸分泌を抑える薬、世界中で多く使用されていて安全性情報が豊富な薬、後発品(ジェネリック医薬品)があって安く購入できる薬などの選択肢がありますし、他に常用薬がある場合には飲み合わせも考慮する必要があります。また、直接的な治療ではありませんが、血圧を下げる薬であるカルシウム拮抗薬には食道と胃のつなぎ目を緩くしてしまう副作用がありますので、他の血圧の薬に変更できるのであればそれも選択肢となります。
薬物治療の効果が乏しい場合や、食道炎が重症化して、食道が狭くなったり、出血を繰り返したりするような方には、手術により逆流を防止する治療が行われることがあります。ただし侵襲の強い治療法であり、十分な内科的治療が行われた後に検討されます。