胃がん
胃がん
胃がんは胃粘膜の細胞ががん細胞に変化したもので、がん細胞は増え続けて塊(腫瘍、しゅよう)をつくります。大きくなった胃がんは胃の壁を通る血管やリンパ管を侵し、肝臓や肺などの胃以外の臓器やリンパ節に飛ぶように広がったり(転移)、胃の隣にある膵臓、大腸、腹膜を直接侵したりします。日本では1年間に約12万人が胃がんと診断されており、男性で10人に1人、女性で21人に1人が生涯のうちに一度は胃がんと診断されています。そして、胃がんは日本人のがん死亡原因の2位となっています(2020年)。
ピロリ菌感染、喫煙、糖尿病、塩分の過剰摂取などがありますが、ピロリ菌感染が最も影響力があり世界保健機関(WHO)で胃がんの原因物質と認められています。ピロリ菌はCagA(キャグエー)という毒素を胃粘膜の細胞に注入し炎症を起こしたり、がんをつくったりします。CagAには強毒性の東アジア型と弱毒性の西洋型がありますが、日本のピロリ菌の90%以上が東アジア型をもっており、日本が世界的に胃がんの多い国であることの原因となっています。ピロリ菌感染による慢性胃炎は、胃粘膜細胞の遺伝子に傷(突然変異)やサビ(DNAメチル化異常)をつけます。がん遺伝子(がん化を促す遺伝子)に傷(突然変異)がつけてその働きが強くなったり、がん抑制遺伝子(がん化を抑える遺伝子)にサビがついてその働きが弱くなったりすると、がん化しやすくなります。これらの遺伝子の傷やサビが蓄積することにより胃がん細胞ができてしまいます。ピロリ菌感染者の10人に1人が一生涯のうちに胃がんにかかるとされており、男性の方が女性よりもリスクが高いです。喫煙率の違いだけでなく、女性ホルモンのエストロゲンが胃がんの発生を抑制する働きが報告されています。
腹痛、息切れ、黒色便、体重減少などがあげられますが、胃がんが小さい段階では無症状のことが多いです。残念なことに、これらの症状があってから検査して胃がんと診断されたときには進行がんとなっていることがほとんどです。そのため、胃がん検診が大切なのです。
胃がんの発見には胃カメラ、胃バリウム検査を受けていただくことが大事です。特に早い段階(早期がん)での診断には胃カメラが役に立ちます。胃がんと診断された後に、CTなどで肝臓や肺、リンパ節への広がりなどを評価して進行度(ステージ)を診断します。
早期がんでは胃カメラを用いた局所切除(内視鏡的粘膜剥離術、ESDなど)や外科的な胃の一部または全部の切除で治りきること(治癒)が期待できることが多いです。一方で進行がんの場合には、手術、抗がん剤治療、放射線治療などが組み合わされて治療されます(集学的治療)。
治りきること(治癒)の指標である5年相対生存率は、がんが胃にとどまっていた方(限局)で96.7%に対して、遠隔転移の無い方(所属リンパ節転移または隣接臓器浸潤)で51.9%、遠隔転移のある方(肝臓、肺の転移など)では6.6%となっています(2009-2011年診断例)。早期に発見することができれば高い確率で治りきること(治癒)が期待できるのに対して、肝臓や肺に転移するなど進行した状態で発見されれば治りきること(治癒)の可能性はかなり低いことが分かります。
胃がんで命を落とさないために、次の3つが大切です。
まずは、胃がんの原因であるピロリ菌に感染しているか知るようにしましょう。ピロリ菌を調べるためには健康診断としてピロリ菌検査を受けていただく必要があります。血液や尿を用いた抗体検査、便を用いた抗原検査が推奨されます。また、胃粘膜委縮の広がりを血液検査で調べるペプシノーゲン法を血液の抗体検査と合わせたABC検診では、ピロリ菌感染だけでなく胃粘膜委縮の広がりから胃がんのリスクについても調べられます。当院を含め、多くの医療機関および健診施設で検査できますので、職場の健診に追加オプションを付けることなどをご検討ください。成人になってからピロリ菌に新しく感染する可能性は年率1%未満とされていますので、一生のうちに1回受けていただくだけで十分です。毎年受けていただく必要はありません。また40歳以上の方では、お住いの市区町村で実施されている胃がん検診を利用することも大切です。胃カメラや胃バリウム検査で慢性胃炎、胃粘膜委縮が見つかればピロリ菌に感染している可能性が高く、ピロリ菌検査を受けるきっかけとなります。胃がん検診の受診率は低く、令和2年度(2020年度)ではコロナ感染拡大の影響もあり、富山県全体でわずか12.1%にとどまっています。③で述べる定期検査の観点からもご負担いただく費用の面からも、胃がん検診のご利用を推奨いたします。
次に、ピロリ菌が感染していることがわかったら、適切な方法で除菌治療を受けましょう。「ピロリ菌と除菌治療」のページで述べたように、ピロリ菌の除菌といっても注意すべき点がいくつもあります。特に誤った除菌判定をしてしまえば、除菌されないまま放っておかれたり、無駄な除菌治療を追加されたり、患者さまに直接的なデメリットとなります。ピロリ菌や除菌治療に十分な知識のある医療機関での治療を推奨します。ご自身のピロリ菌感染がわかり除菌治療に目途が付いたら、ご家族にもピロリ菌感染がないか調べることを勧めましょう。「ピロリ菌と除菌治療」のページで述べたように、ピロリ菌の感染経路の多くは子供のころの家族内感染です。ご両親、ご兄弟、お子様、お孫様が感染している可能性があります。どこかで断ち切らなければ、感染の連鎖は今後も続きます。実際にピロリ菌は何万年もヒトに感染し続けてきました。お子様、お孫様にあなたと同じ胃がんリスクを背負わせる必要はありません。若いうちの除菌治療で十分に胃がんリスクを減らすことができると思われます。ただし高校生以下での除菌治療には安全面や再感染リスクの観点から異論もあり、未成年の除菌治療は専門家と相談して決める必要があります。
ピロリ菌を駆除(除菌)できれば胃がんにならないわけではありません(「ピロリ菌と除菌治療」のページをご参照ください」)。ご自身の胃がんリスクに合わせて適当な間隔で胃カメラや胃バリウム検査による定期検査を受けていただき、胃がんを早期に発見することが大事です。そうすれば適切な治療を受けて胃がんにより命を落とすリスクを最小化できます。胃がん検診を利用する場合には胃カメラは2年ごとの実施となりますが、具体的な検査の間隔は医師と相談して決める必要があります。必要に応じて、健診や保険診療での胃カメラも組み合わせる必要があります。
早期発見できれば、適切な治療を受けることで高い確率で治りきること(治癒)が望めます。胃がんで命を落とさないためにやるべきことは理解できるけど、実行できるか心配になった方も多いかもしれません。安心してください。一人の力ですべてを達成しようと考える必要はありません。大事なことは信頼できるパートナー(専門家)を見つけて受診することなのです。われわれは身近なおなかの専門家として、あなたの健康を守ります。