
ピロリ菌感染症と除菌治療
ピロリ菌感染症と除菌治療
大きさが約4㎛(1000分の4㎜)、らせん状の形をした細菌で、べん毛というヒゲのような突起物を回転させて移動します。正式名称をヘリコバクター・ピロリといいます。胃の中は胃酸によって強い酸性となっているので、ほとんどの細菌は生き延びることができませんが、ピロリ菌はウレアーゼという酵素をつくり、胃の中の尿素をアンモニアに分解してピロリ菌の周りのpHを中性にすることで生き延びることができるユニークな特性をもった細菌です。大事なことは、ピロリ菌は世界保健機関(WHO)が認めた胃がんの原因物質であることです。ピロリ菌はCagA(キャグエー)という毒素を胃粘膜の細胞に注入し炎症を起こしたり、がんをつくったりします。CagAには強毒性の東アジア型と弱毒性の西洋型がありますが、日本のピロリ菌の90%以上が東アジア型をもっており、日本が世界的に胃がんの多い国であることの原因となっています。
ピロリ菌の感染経路のすべてはわかっていませんが、口から感染すると考えられています。ピロリ菌に感染する時期としては、10歳以下(特に4歳以下)がほとんどで、免疫機構が十分に発達していないことが原因とされています。また、衛生環境がピロリ菌感染に関係していることがわかっており、上下水道が十分に整備されていなかった時代に幼少期を過ごされた方に感染率が高い傾向があります。日本人の世代別感染率は、10~20代では10%未満と低いものの、30代で10-20%、40代で20-30%、50代で30-40%、60代で40-60%、70歳以上では50-70%と高齢者ほど高くなります。上下水道が十分に整備された現在では、家庭内感染、特に母親、祖母など小児期に密接に接する大人からの感染が多いと推定されています。具体的には、ピロリ菌に感染している大人から赤ちゃんに口移しで食べ物を与えることが考えられます。成人のピロリ菌感染リスクは年率1%未満とされていますが、看護師や介護士など高齢者の生活介助などの仕事をしている方で感染率が高いとの報告があり、ピロリ菌に感染している高齢者の吐物や排泄物を介して感染していると推察されます。家族の中で一人のピロリ菌感染者が判明したら、家族みんなが健診でピロリ菌検査を受けましょう。子や孫の世代にピロリ菌感染(=胃がんリスク)という負の財産を残さないことが大事です。
ピロリ菌が胃に感染するとほとんどの方では胃に慢性的な炎症(慢性胃炎)を起こします。慢性胃炎ではほとんど症状を起こさないとされていましたが、ピロリ菌を駆除(除菌)した後に食欲が増したり、食事をおいしく感じたりする方もいます。症状が無いというよりは子供のころからずっと症状があるのを当たり前のものと感じてしまっているだけかもしれません。最近では、ヘリコバクター・ピロリ関連ディスペプシアという病気も広く認められるようになっています。慢性胃炎が続くと、胃潰瘍(いかいよう)や十二指腸潰瘍(じゅうにしちょうかいよう)、胃ポリープ、胃がんの土台となります。早期のうちからおなかの痛みや食欲低下、貧血によるふらつきなどの症状がでることは少なく、症状がでたときには進行した状態となっていることがほとんどです。また無症状のうちに病気が進行している場合もありますので胃がん検診を受けていただくことが大事です。ピロリ菌は、そのほかに胃のマルトリンパ腫や、特発性(免疫性)血小板減少性紫斑病の一部の原因となります。
ピロリ菌に関連する病気については、別のページで詳しく説明します。
フローチャートのように、症状の有無で保険診療か自費診療か大きく分かれます。保険診療の場合には、「ピロリ菌は駆除(除菌)したけれど、胃がんは放ったらかし」という悲劇を避ける目的で胃カメラを受けていただくルールになっています。また症状が無くても、除菌治療を受けられたことがある方は胃カメラを受けていただくことをお勧めします。保険診療で行えるピロリ菌検査には7種類ありますが、患者さまに適切な検査方法を提案いたします。検査方法の比較は下図のとおりです。
ピロリ菌の駆除(除菌治療)は、ピロリ菌検査が陽性で胃カメラでピロリ菌による胃炎がある場合に保険適応となります。その他の保険適応疾患として、胃マルトリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病などがあります。
保険診療におけるピロリ菌の除菌治療は、一次除菌治療、二次除菌治療の2セットの薬剤の組み合わせが認められています。除菌治療薬は飲み薬で、1日2回、7日間の内服となります。除菌治療薬を飲み終わった後に一度受診いただき、副作用が無かったか、7日間しっかり飲み切れたか確認いたします。除菌治療によってピロリ菌が駆除されたかの判定は、除菌治療薬を飲み終わってから8週間後を目途に行っています。その際、朝食を食べずに受診いただき、検査用のお薬を飲んだ後に息を吐く検査(尿素呼気試験)を行います。検査結果は1週間後を目途にお伝えいたします。
胃酸を抑える薬であるボノプラザンと抗菌薬(バイ菌を殺す薬)であるアモキシシリン、クラリスロマイシンの3種類の薬を1日2回、7日間服用します。除菌成功確率は約90%です。
一次除菌治療で使用した薬のうち、クラリスロマイシンがメトロニダゾールに代わります。飲み方は一次除菌治療の時と同じで、3種類の薬を1日2回、7日間服用します。除菌成功確率は約90%です。
頻度が高い副作用として、軟便・下痢、味覚異常(唾液が苦くなる)がありますが、いずれも薬を飲み終わると治りますので日常生活に支障が無ければ除菌治療薬を飲み切ることをお勧めします。ただし、頻度は低いものの皮膚にブツブツができる、便に血が混じるなどの副作用がでた場合には速やかに薬をやめて医療機関を受診する必要があります。また、二次除菌治療でメトロニダゾールを飲んでいるときに飲酒すると肝障害は必発ですので、除菌治療中の飲酒はしないでください。宴席の予定がある場合には除菌治療の開始時期を延期する必要があります。
除菌治療後の影響として、除菌が成功すると胃酸の分泌が回復して胃酸が食道に逆流することによる胸やけなどの症状(胃食道逆流症)が出ることがありますが、多くは一時的で胃酸分泌抑制薬を飲むことで症状をコントロールできるとされています。また除菌成功後にはコレステロールが増加するとの報告がありますが、除菌治療の直接的な副作用というよりはごはんを多く食べられるようになる結果とも考えられます。食事量を調整することで対応可能と思われます。
除菌治療の後、4週以降に尿素呼気試験または便中抗原検査で除菌治療判定が推奨されます。除菌判定の正確さから当院では8週以降の除菌判定をお勧めしています。尿素呼気試験では胃酸分泌抑制薬を飲んでいると正確に判定できず、本当はまだ感染しているのに除菌できたと間違って判定してしまいます(偽陰性)ので、胃酸分泌抑制薬を2週間以上中断してから検査を行うのですが、難治性の逆流性食道炎などで胃酸分泌抑制薬をやめられない方の場合は便中抗原検査で除菌判定を行う必要があります。
一次除菌治療でうまくピロリ菌を駆除できなかった場合には、二次除菌治療を行うことになります。一次除菌治療の除菌成功確率は約90%ですので、ピロリ菌除菌治療を受けられた方の約10%が二次除菌治療の対象となります。二次除菌治療の除菌成功確率も約90%ですので、ピロリ菌除菌治療を受けられた方の約1%は女権診療で認められた2回の治療でピロリ菌をうまく駆除できないことになります。これらの方には、自費診療での三次除菌治療が選択肢となります。また、ペニシリン系薬剤などのアレルギーがある方では保険診療で認められた除菌治療が行えませんので、自費診療による除菌治療が選択肢となります。
ピロリ菌除菌で気を付けること
除菌治療で気を付けることは上図の通りですが、3点目について説明を加えます。ピロリ菌を除菌すると胃がんリスクは低下するものの、全くのゼロにはなりません。ピロリ菌は小児期に感染して胃に慢性炎症を起こし、胃の細胞にダメージを与え続けます。そのダメージの蓄積は除菌後も残り、胃がんのリスクとなるのです。仮に40歳でピロリ菌を除菌できたとしても30年間以上のダメージが胃に蓄積されているのですから、除菌できたからと言って胃がん検診を受けないでいると10年、20年後に後悔することになりかねません。定期的な胃カメラ、胃バリウム検査を受けましょう。除菌治療後にピロリ菌に再感染するのは年率1%未満とされていますが、その場合でも定期的な胃カメラで疑うことができます。