ピロリ菌感染症と除菌治療|南條内科おなかクリニック|富山市の内科・消化器内科・内視鏡内科

〒930-0892富山県富山市石坂773-1
電話番号アイコン076-464-6213
WEB予約 WEB問診 LINE
ヘッダー画像

ピロリ菌感染症と除菌治療

ピロリ菌感染症と除菌治療|南條内科おなかクリニック|富山市の内科・消化器内科・内視鏡内科

はじめに

「胃がん」は日本人にとって非常に身近な病気ですが、その原因の大部分が「ピロリ菌」という細菌によるものであることが分かっています。ピロリ菌を除去することは、単に胃炎を治すだけでなく、将来の胃がんリスクを劇的に下げる「最大の予防医学」です。
本稿では、ピロリ菌の正体から感染ルート、最新の研究データに基づく除菌の重要性、そして実際の治療フローまで、専門医の視点から詳しく解説します。

① ピロリ菌とは:過酷な環境を生き抜く「知略家」

ピロリ菌とは

ピロリ菌(正式名称:ヘリコバクター・ピロリ)は、大きさが約4㎛(1000分の4㎜)という極小の細菌です。顕微鏡で見ると、らせん状にねじれた形をしており、片方の端には「べん毛」と呼ばれる数本のヒゲのような突起があります。これをスクリューのように回転させることで、粘り気のある胃粘膜の中を自由に、かつ高速に移動します。

なぜ強酸の胃の中で死なないのか?

通常、人間の胃の中は「胃酸」によって強力な酸性(pH1〜2)に保たれており、食べ物と一緒に侵入したほとんどの細菌は数分で死滅します。しかし、ピロリ菌は「ウレアーゼ」という特殊な酵素を分泌します。
この酵素は、胃の中にある尿素を分解して「アンモニア」を作り出します。アルカリ性であるアンモニアは胃酸を中和するため、ピロリ菌は自分の周囲にだけ中性に近いバリア(中和圏)を張り、ぬくぬくと生き延びることができるのです。このユニークかつ狡猾な特性こそが、ピロリ菌が長期間にわたって胃に棲みつき続ける理由です。

WHOが認めた「発がん因子」としての側面

最も重要な事実は、世界保健機関(WHO)の外部機関である国際がん研究機関(IARC)が、ピロリ菌を「グループ1(ヒトに対して発がん性がある)」と認定していることです。
ピロリ菌は単に胃に住んでいるだけではありません。「CagA(キャグエー)」という毒素を胃粘膜の細胞に直接注入し、慢性的な炎症を引き起こします。

東アジア型(強毒性)
日本のピロリ菌の90%以上がこのタイプです。
西洋型(弱毒性)
欧米に多いタイプです。

日本が世界的に見ても胃がんが多い国である最大の要因は、この「強毒性」のピロリ菌が広く蔓延していることにあります。

② 感染経路:なぜ、いつ感染するのか?

ピロリ菌はどのように感染するか

ピロリ菌の感染ルートの詳細はまだ完全には解明されていませんが、基本的には「口から入る(経口感染)」と考えられています。

5歳までの「幼少期」が運命の分かれ道

ピロリ菌に感染する時期は、10歳以下(特に5歳以下)がほとんどです。この時期の子供は胃酸の分泌がまだ弱く、免疫機構も十分に発達していないため、ピロリ菌が胃に定着しやすいのです。逆に、免疫が確立した成人が日常生活の中で新しく感染することは、極めて稀(年率1%未満)です。

時代背景と衛生環境の変化

かつては、上下水道が十分に整備されていなかった時代の生水(井戸水など)が主な感染源でした。そのため、現在の60代・70代以上の方の感染率は非常に高く、50〜70%に達します。
一方、上下水道が完備された現代の日本においては、「家庭内感染」が主軸となっています。

母子感染・祖父母からの感染
離乳食の口移し、箸の共有、スキンシップなどを介して、感染している大人から子供へ菌が移ります。
世代別の感染率
10〜20代では10%未満と激減していますが、それでもゼロではありません。

現代の感染リスクと家族への配慮

看護師や介護士など、高齢者の生活介助(吐物や排泄物の処理)に携わる職業の方は、成人後でも感染率がやや高いという報告があります。ピロリ菌は胃液や便の中に潜んでいるためです。
もし、家族の中で一人でもピロリ菌感染が判明したら、家族全員で検査を受けることを強くお勧めします。子や孫の世代に「胃がんリスク」という負の財産を連鎖させないことが、現代における最も大切な健康管理の一つです。

③ ピロリ菌が引き起こす病気と「無症状」の恐怖

ピロリ菌はどんな悪さをするか

ピロリ菌が胃に棲みつくと、ほぼ100%の確率で胃の粘膜に慢性的な炎症を引き起こします。
これを「ピロリ感染胃炎(慢性胃炎)」と呼びます。

「自覚症状がない」のが当たり前?

慢性胃炎の多くは、痛みやもたれなどの自覚症状を伴いません。しかし、除菌治療に成功した患者様から「以前より食欲が出た」「食事がおいしく感じるようになった」という声を多く聞きます。これは、子供の頃からずっと炎症がある状態が「日常」だったため、胃の不快感を自覚できていなかっただけかもしれません。
最近では、ピロリ菌が原因で胃の痛みやもたれが生じる「ヘリコバクター・ピロリ関連ディスペプシア(FD)」という概念も定着しています。

放置することで進行する重大疾患

慢性胃炎を放置すると、胃の粘膜が萎縮(薄くなること)し、以下の病気の温床となります。

1胃潰瘍・十二指腸潰瘍
粘膜が深く傷つき、痛みや出血(吐血・下血)を招きます。
2胃ポリープ
粘膜の異常増殖です。
3胃がん
萎縮が進んだ「萎縮性胃炎」は胃がんの最大のリスク因子です。
4その他
全身の病気である「特発性(免疫性)血小板減少性紫斑病」や、胃の血液がんである「胃MALTリンパ腫」の原因にもなります。

これらは、初期段階ではほとんど症状が出ません。「症状が出てから受診する」のでは、胃がんの場合は既に進行してしまっていることが多いのです。無症状のうちに検診(胃カメラ)を受ける重要性はここにあります。
ピロリ菌に関連する病気については、別のページで詳しく説明します。

④ ピロリ菌に感染しているか知りたい - 検査と保険診療の「厳格なルール」 -

ピロリ菌に感染しているかどうかを知るには、いくつかの方法がありますが、日本の公的保険診療には明確なルールが存在します。

保険適用の条件は「胃カメラ」が必須

ピロリ菌の検査・除菌を保険(3割負担など)で行うためには、「内視鏡(胃カメラ)検査を受けて、胃炎や潰瘍の所見があること」が絶対条件です。
「なぜ胃カメラを強制されるのか?」と疑問に思う方もいるかもしれませんが、これには非常に重要な理由があります。それは、「除菌をする前に、すでに胃がんができていないかを確認するため」です。もし胃がんがあるのに気づかず、除菌だけして「これで安心」と思い込んでしまうと、がんの発見が遅れ、手遅れになるリスクがあります。

主な検査方法の比較

現在、以下の7種類の検査方法が一般的です。

尿素呼気試験
検査用の薬を飲み、吐き出した息(呼気)を調べる。精度が最も高く、除菌後の判定に多用されます。
便中抗原検査
便を採取して菌の破片を調べる。非常に精度が高く、薬の影響を受けにくいのが特徴です。
血液・尿抗体検査
採血などで「菌に対する免疫(抗体)」を調べる。健康診断の「ABC検診」などでよく使われます。
内視鏡による生検
胃カメラの際に粘膜の一部を採取して調べる。

ピロリ菌に感染しているか知りたい

ピロリ菌に感染しているか知りたい

ピロリ菌検査の比較

⑤ 胃がんリスクを劇的に下げる「年齢」の壁

「除菌はいつでもいい」というわけではありません。ピロリ菌除菌の最大の効果を得るためには「若いうちに」が鉄則です。

45歳未満での除菌が「最も効果的」

2023年に発表された大規模な追跡調査(Cancers 2023)では、除菌年齢と胃がん発症率の関係が衝撃的な数字で示されました。
75歳以上で除菌したグループと比較した際、胃がん発症リスクの減少率は以下の通りです。

45歳未満で除菌 約67%減少
45〜49歳で除菌 約49〜62%減少
50〜54歳で除菌 約43〜44%減少

このデータが物語るのは、「1年でも早く除菌した方が、将来の胃がんを確実に予防できる」という事実です。胃の粘膜がピロリ菌によってダメージを受けきり、取り返しのつかない「萎縮」が進む前に菌を退治することが、一生の安心に繋がります。

ピロリ菌除菌年齢と胃がんリスク

ピロリ菌除菌年齢と胃がんリスク

ピロリ菌除菌年齢と胃がんリスク legend

⑥ 除菌治療の実際:1週間の内服で未来を変える

ピロリ菌の除菌は、手術などは不要です。指定された飲み薬を「1日2回、7日間」、正確に服用するだけです。

一次除菌と二次除菌のステップ

1一次除菌
3種類の薬(胃酸抑制薬;ボノプラザン、抗菌薬;アモキシシリン、クラリスロマイシン)を服用。成功率は約90%です。
2二次除菌
一次で失敗した場合(約10%の方)、抗菌薬の一つを「メトロニダゾール」に変更して再チャレンジします。こちらの成功率も約90%です。

保険診療では、この「二次除菌」まで認められており、トータルで約99%の方が除菌に成功します。

副作用と「絶対に守るべき約束」

よくある副作用
下痢、軟便、味覚異常(口が苦い)。これらは薬の作用によるもので、通常は飲み終われば改善します。
緊急停止のサイン
ひどい発疹や、粘膜に血が混じるような激しい下痢が出た場合は、直ちに内服を中止し、医師に相談してください。
飲酒の禁止
二次除菌の期間中(および前後)は、絶対にお酒を飲まないでください。
メトロニダゾールとお酒を一緒に摂取すると、アルコール代謝が妨げられ、激しい嘔吐や動悸、肝障害を引き起こします。

⑦ 除菌判定:治療の成果を確認する重要なステップ

除菌治療薬(1日2回、7日間)をすべて飲み終えたからといって、すぐに除菌が成功したかどうかは分かりません。ピロリ菌が本当にいなくなったかを正確に判定するためには、一定の期間を置いた後の「除菌判定検査」が不可欠です。

1. 除菌薬を飲み終えた直後の受診

7日間の内服が終了したら、まずは一度ご来院ください。ここでは以下の点を確認します。

服用の完遂
7日間、1回も忘れずに飲み切れたかどうか。
副作用の有無
下痢や味覚異常、発疹などの症状が出なかったか。
体調の変化
内服中および内服終了後の体調の推移。

2. なぜ「8週間後」に判定するのか?

当院では、除菌治療薬を飲み終わってから8週間後を目途に判定検査を行っています。
「なぜそんなに待つの?」と思われるかもしれませんが、これには医学的な理由があります。除菌薬の影響でピロリ菌が一時的に弱まり、数は減っているものの完全には死滅していない「仮死状態」になることがあります。この時期に検査をすると、本当は菌が残っているのに「陰性」と出てしまう「偽陰性(ぎいんせい)」が起こりやすいのです。
8週間という十分な期間を置くことで、判定の正確性を最大限に高めることができます。

3. 除菌判定の主役「尿素呼気試験」の流れ

当院で主に行っているのは、身体への負担が少なく、極めて精度の高い「尿素呼気試験」です。

1

検査当日の準備

より正確な数値を測るため、当日の朝食は食べずにご来院ください。
胃の中に食べ物があると、検査薬の反応が正しく出ない可能性があるためです。

2

検査の手順

  1. 検査前の一呼吸を専用の袋に採取します。
  2. 検査用のお薬(錠剤)を少量の水で服用します。
  3. 服用から20分後、再び専用の袋に息を吐き出します。

3

結果の報告

検査結果は、外部機関での解析を経て約1週間後にお伝えいたします。

4. 判定時の注意点:薬の飲み合わせについて

胃酸の分泌を抑える薬(タケキャブ、ネキシウムなど)を継続して飲んでいる場合、検査結果が正しく出ないことがあります。除菌成功を正しく判断するために、これらの薬は判定検査の2週間前から中断する必要があります。持病の関係で中断が難しい場合は、「便中抗原検査」など別の手法を選択いたしますので、必ず事前にご相談ください。

除菌治療の流れ

除菌治療の副作用

除菌治療が不成功だった場合

⑧ 三次除菌(自費診療)への道

二次除菌後の判定の結果、残念ながら「陽性(除菌不成功)」となった場合でも、次のステップが用意されています。三次除菌まで必要になったとしても、現代医学をもってすれば、ほとんどのピロリ菌を駆除することが可能です。「自分は除菌できないタイプだ」と諦める前に、ぜひ専門医にご相談ください。あなたの胃を健康な状態に戻し、次の世代へ「胃がんのない未来」を繋いでいきましょう。
ピロリ菌除菌の一次・二次治療で惜しくも除菌が成立しなかった方(全体の約1%程度)や、ペニシリンアレルギーをお持ちの方にとって、「三次除菌」は非常に重要な選択肢となります。

⑨ 除菌成功後の「落とし穴」:定期検診は必須

最後に、最も重要なアドバイスです。
「除菌に成功した=胃がんにならない」ではありません。
ピロリ菌は幼少期から何十年も胃に棲みつき、細胞に「がんの芽」となるようなダメージを刻み込んでいます。除菌はこの「ダメージの進行」を止めるものであり、過去に受けたダメージを完全にゼロにリセットするわけではないのです。

「除菌後胃がん」の存在
除菌から10年、20年経った後に胃がんが見つかるケースは珍しくありません。
定期検診の継続
除菌に成功した後も、1〜2年に一度は定期的な胃カメラ検査を継続してください。除菌によって胃の状態が良くなると、万が一がんができても早期に発見・治療できる可能性が格段に高まります。

あなたにできる「次のステップ」

ピロリ菌は、一度しっかり除菌してしまえば、再感染することは稀です。つまり、人生でたった一度、1週間だけ本気で向き合えば、一生続く安心が手に入るのです。
まずは、お手元の過去の健康診断の結果を見返してみてください。「ピロリ菌」や「ABC検診」の項目はありますか?
もし「陽性」と書かれたまま放置していたり、そもそも検査を受けたことがなかったりする場合は、ぜひ当院を受診してください。
「ピロリ菌が心配なので検査したい」――その一言が、あなたの健康な未来を守る第一歩になります。