過敏性腸症候群
過敏性腸症候群
がんなどのできもの(腫瘍、しゅよう)、潰瘍(かいよう)などの粘膜のキズなどの目で見てわかる病気やそのほかの原因となるような病気が無く、食道、胃、小腸、大腸の動きや刺激に対する過敏性が原因でおなかの症状がでる病気のことです。言い換えると、血液検査、胃カメラや大腸カメラ、腹部超音波(エコー)検査、CT検査で調べても原因がわからない病気です。機能性消化管疾患は、機能性ディスペプシアと過敏性腸症候群の2つを含みます。
大腸がんや腸に炎症が起きる病気が無いのに、おなかの痛みや便秘・下痢が何か月も続く病気です。とてもありふれた病気で、日本人のおよそ10%の方がこの病気で悩んでいるとされています。
便秘と下痢を繰り返したり、腹痛を伴ったりします。便が固かったりウサギのフンのようにコロコロとしている期間もあれば、便器の中で形が崩れたり水分を多く含んでドロドロになっている期間もあり、おなかの痛みや違和感があります。
大まかに言えば、(1)腸が敏感になって小さな刺激を受けても大きな信号を脳に伝えてしまうこと、(2)信号を受けた脳が必要以上に重大な刺激として認識してしまい痛みや苦痛として感じること、(3)痛みや苦痛、不安感を感じた脳は腸の動きを強くしたり、もっと敏感にしてしまったりすることが原因です。
具体的には、精神的ストレス、セロトニンの欠乏による不安感・内臓知覚過敏、ストレスホルモンであるコルチコトロピン放出ホルモンの過剰による大腸運動の亢進(強くなること)、オキシトシンの欠乏による内臓知覚過敏、腸内細菌の乱れ、粘膜透過性亢進(粘膜のバリア機能が低下すること)、粘膜微小炎症などが原因と報告されています。
また、内臓知覚、粘膜透過性と関連する遺伝子によって過敏性腸症候群になりやすさも変わることも報告されています。さらに、食あたりなどによる感染性腸炎にかかった方のおよそ10%が過敏性腸症候群となるとされており、感染性腸炎後過敏性腸症候群と呼ばれています。
おなかの症状の原因になるような病気、特に大腸がんや腸に炎症が起きる病気が無いこと(または疑う所見が無いこと)を確認できて初めて過敏性腸症候群と診断されます。
熱が出る、関節の痛みがある、便に血が混じる、ダイエットしていないのに体重が減るなどの症状があったり、診察でおなかにデキモノを触れる、おなかに水がたまっているなどの所見があったりすれば、必ず血液検査、大腸カメラなどの検査を受けるべきです。また、50歳以上になって初めておなかの症状が出てきた方や血のつながった方に大腸癌がいる方なども大腸カメラなどの検査を受けることが推奨されます。
食事や運動の指導の他、薬物療法として消化管運動機能調節薬、下痢止め、便秘薬、整腸剤、高分子重合体、漢方薬、抗うつ薬、抗不安薬などが使用されます。
食事については、脂質、カフェイン、香辛料を多く含む食品、牛乳、乳製品などは過敏性腸症候群の症状を起こしやすいので、控えるようにします。また、短鎖炭水化物(fermentable[発酵性]、oligosaccharides[オリゴ糖]、disaccharides[二糖類]、monosaccharides[単糖類]and polyols[糖アルコール], FODMAP)を多く含む食事を避けること(低FODMAP食)が良いとする報告もあります。FODMAPを多く含む食品として、小麦、タマネギ、ひよこ豆、レンズ豆、リンゴ、トウモロコシ、牛乳、ヨーグルト、はちみつなどがあります。
薬による治療は主な症状が下痢、便秘、腹痛なのかによって選択されますが、症状に合わせて薬の調整が必要なことも多いです。