炎症性腸疾患
炎症性腸疾患
日本の炎症性腸疾患(IBD)の患者数は年々増えており、2017年の疫学調査では約30万人と報告されています。1970年代には5,000人未満でしたから、この50年で急激に患者数が増えたことが分かります。以前は大学病院や大規模な総合病院を中心に診療されていたのですが、治療の進歩により外来診療でのコントロールが可能になってきたこと、社会で活躍する患者さまが増えたことなどから、診療の場が小規模な病院や診療所に広がっています。一方で、IBD診療経験の豊富な医師は多くなく、また地域的な偏在も指摘されています。私たちのクリニックのある北陸地方、富山県ではIBD診療を中心に掲げる診療所は少なく、IBD患者さまの診療の場の選択肢が限られていました。私たちのクリニックは北陸地方、富山県のIBD診療の新たな選択肢になります。
我々のクリニックでは、皆様のIBDの重症度を適切に判断した上で、治療の選択肢を提示し、皆様とともに治療法を選択して、納得していただける医療に努めます。IBD治療の一般的な最終目標は皆様に健康な方と同じ生活を送り続けていただくことですが、個人によって目標が異なっているかもしれません。治療は皆様のために行うものですから目標を押し付けることはありません。個人の最終目標が最も重要です。それを達成するためには、中間的な目標を共有してともに達成することの繰り返しが大切です。皆様とよくコミュニケーションをとって目標を達成したいと考えています。
IBD診療には大腸カメラ、胃カメラは必須ですが、我々のクリニックでは鎮静剤を使って眠たくなった状態で検査を受けていただけます。特に腸炎が悪くなった状態での大腸カメラは辛いものです。検査の苦痛を最小化することで、適切な時期に必要な検査を受けていただき、適切な治療法を選択して、最終的に病気がよくコントロールされた状態(寛解、かんかい)を長く続けることにつながると確信しています。
IBD治療は個別の状態に合わせて選択することが大切ですが、当院では基本的な治療薬である5-アミノサリチル酸、ステロイド、局所製剤(坐薬などのお尻から入れる薬)だけでなく、必要に応じて免疫調節薬(アザチオプリン)、生物学的製剤などの専門的な薬を使用することができます。最近のIBD治療薬の進歩は目覚ましいのですが、必ず効く薬はありませんし、副作用が無い薬もありません。どの薬も期待される効果(メリット、利益)と危惧される副作用(デメリット、リスク)のバランスが大切です。できるだけ選択肢を提示して、皆様と相談して治療薬を決めたいと思っています。
当院は「難病法に基づく指定医療機関」および「小児慢性特定疾病医療機関」です。
炎症性腸疾患(IBD)には主に潰瘍性大腸炎とクローン病の2種類があり、ともに難病に指定されています。いずれも慢性的な下痢や血便、腹痛、体重減少、発熱などの症状がありますが、治療をしなくても症状が落ち着いてしまうことがあり、診断が遅れる原因になります。IBDは早期の診断、治療が重要です。疑われる症状や不安がある場合は、お気軽にご相談ください。
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に炎症が起こり、粘膜が傷つく病気です。病変は直腸から始まり連続的に上方(口側)へと広がるのが特徴です。若年者から高齢者まで発症します。
腹痛、下痢、血便があります。徐々に悪くなる場合もあれば、急激に悪くなって命にかかわることもあります。おなかの症状以外にも、関節の痛み、口内炎、皮膚炎などを合併することがあります。
症状の経過、血液検査(貧血や炎症の有無、栄養状態など)、大腸カメラ(炎症の状態や範囲)、病理検査(大腸粘膜の一部を採取して顕微鏡で炎症を確認)、便の細菌検査などの結果を総合的に評価して、診断されます。
一般的な治療の目標は、炎症が落ち着いた状態である「寛解(かんかい)」を長く維持することです。寛解にも、症状が落ち着いている「臨床的寛解」、大腸カメラで調べても炎症が無い「内視鏡的寛解」の2段階があります。20年以上前は臨床的寛解が治療の目標でしたが、内視鏡的寛解を達成した方が大腸を切らなくて済む割合が多いことが分かるなどしたため、現在は内視鏡的寛解が目標となっています。
軽症の場合には、病変に直接作用して炎症を抑える5-アミノサリチル酸(5-ASA)で治療されます。飲み薬の他に、液体や泡状の薬をお尻から入れる注腸薬や坐薬があり、炎症の範囲によって使い分けられます。
中等症の場合には、炎症を広く抑えるステロイドで治療されることが多いです。ステロイドは3か月間を目安に使用されますが、約半数の患者さまではステロイドを減らす過程や止めた後で再燃(炎症が再び悪くなること)してしまいます。これをステロイド依存性と呼び、広く免疫を抑制するアザチオプリンが使用されます。最近、炎症を起こすリンパ球が大腸の壁に移動するのを防ぐα4インテグリン阻害薬のカロテグラストメチルが、ステロイドの代わりの選択肢になりました。
ステロイドが十分に効かない場合(ステロイド抵抗性)には、腸管の炎症の原因となるTNF-αという物質を抑える抗TNF-α抗体、白血球を活性化させるIL-12、IL-23という物質を抑える抗IL-12/23p40抗体、炎症を起こすリンパ球が大腸に移動するのを防ぐ抗α4β7インテグリン抗体、炎症を起こす物質を広く抑えるヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬を用いることがあります。
急激に悪くなった(劇症)場合、薬物治療でうまく治療できない(難治)場合、大腸炎に関連した大腸がんができた場合などには、手術で治療されます。
クローン病では小腸や大腸に炎症が起きることが多いのですが、口、食道、胃、肛門にも炎症がおきる可能性のある病気です。炎症が強くなり、長く続くと腸が狭くなったり(狭窄)、穴が開いたり(穿孔、せんこう)、腸と腸、腸と膀胱、腸と皮膚などの間に通路ができてしまいます(瘻孔、ろうこう)。10~20代の若年で病気になることが多いです。
腹痛、下痢、発熱、体重減少、痔ろうなどがあります。「おなかが弱い」体質と思っていたら、知らないうちに病気が進行して腸に穴が開いてから診断されることもあります。おなかの症状以外にも、口内炎、関節の痛み、皮膚炎などを合併することがあります。
症状の経過、血液検査(貧血や炎症の有無、栄養状態など)、胃カメラ・小腸カメラ・大腸カメラ・CT検査(炎症の状態や範囲)、病理検査(顕微鏡で炎症を確認)、便の細菌検査などの結果を総合的に評価して診断されます。当院では小腸カメラやCT検査を行えませんので、提携する総合病院をご紹介します。診断時に病変の範囲を正しく知ることが大切です。
潰瘍性大腸炎と同様、一般的な治療の目標は内視鏡的寛解を長く続けることです(潰瘍性大腸炎の治療目標を参照ください)。炎症を繰り返すうちに腸にダメージが蓄積して、狭窄、穿孔、瘻孔といった合併症がでるとイメージしてください。
クローン病の治療は、栄養療法、薬物治療、外科治療の3本柱です。栄養療法は、消化しなくてもすぐに栄養素を吸収できる状態の栄養剤(成分栄養剤)を食事の代わりに飲んで、腸への刺激を無くして炎症を和らげる治療です。薬物療法は、重症度や病変の範囲などから適切な薬が選択されます。具体的には、病変に直接作用して炎症を抑える5-アミノサリチル酸、炎症を広く抑えるステロイド、広く免疫を抑制するアザチオプリン、腸管の炎症の原因となるTNF-αという物質を抑える抗TNF-α抗体、白血球を活性化させるIL-12、IL-23という物質を抑える抗IL-12/23p40抗体や抗IL-23p19抗体、炎症を起こすリンパ球が大腸に移動するのを防ぐ抗α4β7インテグリン抗体から選択されます。
腸がとても狭くなったり(狭窄)、腸に穴が開いたり(穿孔)、おなかの中に膿がたまったり(膿瘍)した場合などには、手術で治療されます。
腸がとても狭くなったり(狭窄)、腸に穴が開いたり(穿孔)、おなかの中に膿がたまったり(膿瘍)した場合などには、手術で治療されます。