機能性ディスペプシア
機能性ディスペプシア
がんなどのできもの(腫瘍、しゅよう)、潰瘍(かいよう)などの粘膜のキズなどの目で見てわかる病気やそのほかの原因となるような病気が無く、食道、胃、小腸、大腸の動きや刺激に対する過敏性が原因でおなかの症状がでる病気のことです。言い換えると、血液検査、胃カメラや大腸カメラ、腹部超音波(エコー)検査、CT検査で調べても原因がわからない病気です。機能性消化管疾患は、機能性ディスペプシアと過敏性腸症候群の2つを含みます。
ディスペプシアという聞きなれない言葉が出てきました。ギリシャ語に由来するbad digestion(悪い消化、消化不良)という意味の言葉で、医学用語としては、みぞおちの痛みや胃もたれなどみぞおちを中心としたおなかの症状を指します。機能性ディスペプシアは、できもの(腫瘍)や潰瘍が無いのにディスペプシア症状のある病気のことです。
代表的な症状として、「食事の後におなかが張る」「すぐにおなかがいっぱいになる」「みぞおちが痛い」「みぞおちが焼ける感じ」があります。
胃や十二指腸の動きの悪さ、刺激に対する過敏性、精神的ストレス、胃酸、生まれ持った体質、運動不足・睡眠不足・油や脂の多い食事・不規則な食事・早食いなどの生活習慣が原因になっていることがあります。食物が胃の中に入ると胃の上の方が広がって食物を溜めて(適応弛緩、てきおうしかん)、その後に胃が動いて食物を消化しながら十二指腸に送り出します(胃排出能、いはいしゅつのう)。適応弛緩が起きなかったり胃排出能が落ちたりすると、すぐに満腹に感じてしまいます。また、ヒトは胃酸が十二指腸に流れ込むと胃の動きが抑えられて満腹感を感じるようになっているのですが、これが食事してすぐに起きるとディスペプシア症状の原因になります。その他、精神的なストレスは胃腸の動きや過敏性と強くかかわっていますし、生まれ持った体質として過敏な方もいます。
慢性的なディスペプシア症状がある場合、次に述べるような症状や病気が無いことを確かめて機能性ディスペプシアと診断されます。体重が減っていたり、何度も嘔吐(吐くこと)したり、貧血があったりする場合には食道がんや胃がんが無いことの確認が大切ですので、胃カメラを受けていただくことになります。また、胃に感染するピロリ菌がディスペプシア症状の原因となっていることがありますので、ピロリ菌に感染しているか知ることも重要です。解決できる原因を放っておいて症状に対する治療をしても仕方ないですよね。ピロリ菌に感染していないことが確認された方、感染していて駆除(除菌)したけれどディスペプシア症状が残っている方が機能性ディスペプシアと診断されます。
運動不足・睡眠不足・油や脂の多い食事・不規則な食事・早食いなどの生活習慣がある方には、これらを改善するようにしていただくことが大切です。薬による治療としては、胃腸の動きを良くする薬、漢方薬、胃酸分泌を抑える薬、不安感を和らげる薬が使われます。胃腸の動きを良くする薬であるアコチアミドは適応弛緩を回復する作用が報告されていますし、漢方薬の六君子湯(りっくんしとう)は胃腸の動きを改善したり食欲亢進ホルモンのグレリンの分泌を促したりする作用が認められています。胃酸分泌を抑える薬は胃酸が原因の場合に有効ですし、不安感を和らげる薬は精神的な要素が強い方に効果が期待できます。機能性ディスペプシアの原因は様々ですので、個々人に合った治療法や薬を見つけることが大切です。